ヘルマン・ヘッセの雲 「うすものを着て雲のゆくたのしさよ」 細見綾子

 *ヘルマン・ヘッセの雲 -うすものを着て雲のゆくたのしさよ- 俳句 細見綾子

何となく気分が晴れない時があります。

そんなときは、外へ出ます。

「自然の恵み」を身体いっぱいに浴びて、息を吹きかえすために。

川沿いの道を歩いていると、美しい雲が山の上に見えてきました。



雲というと、わたしはいつもヘルマン・ヘッセを思い出します。
少年の頃、読み耽っていたヘルマン・ヘッセ。その小説に出てくる「雲」のことを思い出します。空をおおらかに流れ、自由自在に姿を変えてゆく雲。ヘルマン・ヘッセの雲。

小説「車輪の下」にも、そんな雲のことが書かれていて、登場人物はその自由な雲を憧れをもって眺め、その雲の素晴らしさを語ります。
(そんな場面があったような気がするのですが、どうでしょうか。五十数年前のことで記憶に自信はありません。)

*ヘルマン・ヘッセの雲 -うすものを着て雲のゆくたのしさよ- 俳句 細見綾子

その -ヘルマン・ヘッセの- 雲を見ていると気分が変わります。
晴れない気分も空に解放され、雲のおおらかさに包まれます。


「雲」の出てくる言葉が好きです。
「行雲流水」なんて古い言葉ですが、なんとすがすがしい言葉なのでしょう。大空をゆったりと雲は行き、清らかに水は大地を流れうるおします。

このような空を見ていると、空を行く雲に向かって、何か「つぶやき」たくなります。そして、決意も自然に定まります。

鰯雲人に告ぐべきことならず     加藤楸邨

いわしぐも ひとにつぐべき ことならず

わたしも、雲に向かって時にはつぶやきます。

みずから限定 するなかれ
自分はあてにならんよ

なんてつぶやいたこともありました。
そして、すべてを雲に託してみたくなります。
そう、

うすものを着て雲のゆくたのしさよ  細見綾子

「うすもの」がいいです。たくさん着すぎると(持ちすぎると、欲ばると、見栄を張ると、我を張ると)、人生重くて大儀でしょうから。

大空の雲に、大らかに包まれているのですから。心配はいりません。

心配してしまうときは、心配してしまえばいいのですから、心配はいりません。
心配していいのですから、心配はいりません。
そう、自らに言い聞かせつつ。

*ヘルマン・ヘッセの雲 -うすものを着て雲のゆくたのしさよ- 俳句 細見綾子