俳人 黒田杏子さん 追悼


*この記事は、2023年4月に「黒田杏子さん追悼 -いろはの散歩路-」として発表した記事を、「黒田杏子さん 追悼」と「いろはの散歩道」の2つの記事に分けて、新たに書き足して更新したものです。


黒田杏子さん 追悼


 黒田杏子さんが2023年3月13日に亡くなられました。黒田さんの句には好きなのがたくさんありました。その著書も味わい深く読ませていただきました。感謝。

磨崖佛おほむらさきを放ちけり       黒田杏子
 まがいぶつ おおむらさきを はなちけり

 磨崖仏(まがいぶつ)の限りなき慈愛は放たれた。

オオムラサキも、ひばりも、セミの声も、天地いっぱいに放たれた。

そして、わたしのこころも。

身の奥の鈴鳴りいづるさくらかな     黒田杏子

小春日やりんりんと鳴る耳環欲し     黒田杏子

たそがれてあふれてしだれざくらかな  黒田杏子

「おほむらさき」の美しい翅の羽ばたきとともに、鈴なりいづるさくらも、りんりんと鳴る耳環も、そして溢れ出るしだれざくらも、その「存在」はひらかれた。 


一茎のあざみを挿せば野の如し     黒田杏子

どの谷のいづれの花となく舞へる     黒田杏子

ひとはみなひとわすれゆくさくらかな  黒田杏子


「一茎のあざみ」の中に広がる野原、大自然、美しい一宇宙。

どの谷、どの花という名前(「わたくし」)などは忘れてしまう、ただ舞っている花。

「わたくし」は、自然のただ中に名前(言葉)を忘れて還ってゆく。

 冬麗のたれにも逢はぬところまで  黒田杏子



*黒田杏子さん追悼 「磨崖佛おほむらさきを放ちけり」(俳句)