北村英治 ライヴ 再び (+「素敵なあなた」鑑賞ノート)

 北村英治の演奏をライヴではじめて聴いたのは、確か1982年頃で、六本木のジャズ・クラブ「サテンドール」へ家内と一緒に行った時でした。その頃聴いていたアルバム「SONG FOLIO」の中の1曲「Linda」をリクエストしたのですが、他のメンバーはよくはご存じなかったのか、その場で簡単な打ち合わせをしてから演奏していただきました。

 北村英治の音楽は、四十数年前、3枚組のLPレコード「SONG FOLIO」から聴き始めました。このレコードは、彼の音楽生活30周年と南里文雄賞を受賞したことを記念して作られたものです。スイングの古き良き時代の名曲30曲が3枚のLPレコードに納められている大作でした。古い曲には、いいなあと思う曲がたくさんあります。そのオン・パレードです。

 また、「SONG FOLIO」には、大好きな秋満義孝が参加しています。北村とともに秋満義孝のピアノの演奏も、当時、十分に楽しむことができたのでした。



 それから、LP「素敵なあなた」やコンコード・ジャズ祭に出演したLPを聴いたり、CD「SWINGIN’ STREET」などを聴いていました。しかし、その後は多忙のために、北村英治の音楽とは、ずっとご無沙汰しておりました。

 そして久々に北村英治を聴くことになりました。定年後に時間ができましたので、銀座のジャズ・クラブ《Swing》へ北村の演奏を聴きに行くことができたのです。2015年の夏ごろのことで、わが家の娘も聴きたいというので娘と一緒に出かけました。席は満席でした。この夜は女優の水谷八重子さんも客席にいらっしゃって演奏を楽しんでいました。

 久しぶりに、柔らかいな美しい北村さんのクラリネットに、聴き入ってしまいました。人柄の北村英治と言われる如く、クラリネットの音色と共に、北村さんの紳士的な穏やかな人柄や話にも、一段と円熟味が増していたように思いました。

 北村英治さんのオフィシャルホームページをみていたら、2020年4月に同じ《Swing》で収録した動画がありました。その時点で、北村さんは、91歳になられたそうです。

 この動画の2曲目は「Smiles」という曲です。
「医療従事者のみなさまや頑張っている多く人達への励まし」を込めての北村さんの演奏です。北村さんのあたたかな願いとクラリネットの音色を味わいながら聴いています。


 この動画の中で、北村英治曰く、

「まだまだこの先、何年吹けるかわからないですけど、10年ぐらいはまだ吹きたいなと思うんです。まあ、元気にいきたいと思います。」と。

 10年後ぐらいまでというと、2030年で101歳ですか。安心しました。まだまだ、北村さんの演奏が聴けます。

 それにしても、音楽家の生命力というか、若さというか、そういうものには驚かされます。 今夜放送のNHK交響楽団を指揮していたブロムシュテットという指揮者は、95歳でわざわざヨーロッパから日本まで来て指揮をしています。わが日本の北村英治は、101歳まで演奏するといいます。また、秋満義孝さんも93歳で素晴らしいピアノ演奏を聴かせてくれています。音楽家本人の努力とか節制とかを超えた、大自然の偉大な力が働いているとしか思えません。

 わたしの方は、この3年間ほどコロナ禍で基礎疾患があるため、田舎生活の真っ只中にいて、音楽を聴きに出かけられないでいます。でも、2030年ぐらいまでは、北村さんも演奏してくださるようですから、安心です。北村さんもご高齢なので心配していましたが、わたしももう少ししたら演奏を聴きに行けるかもしれません。今から楽しみにしています。

 



 わたしの持っている北村英治のLPやCDの数は少ないのですが、その中から「 素敵なあなた/北村英治オール・スターズ 」というLPレコードを出してきて、今聴いています。

 このレコードは、録音も気に入っています。特にCDを聴き慣れた耳には、アナログレコードの成熟期の音が蘇って来たような感じで、ニュアンスの豊かな音楽が溢れ出てきます。

 北村英治(cl) 尾田悟(ts) 秋満義孝(p) 池沢行生(b) 須永ひろし(ds)

〈いろはNo思いこみ鑑賞ノート〉

A1  My Gal Sal

 秋満義孝のPのソロがなかなかいい感じで始まります。北村のclの爽やかなソロの後、アドリブが見事に展開していきます。秋満のPも乗っています。尾田のtsの後、北村がまた素晴らしいのです。

A2  Someday Sweetheart

 尾田のtsの後、北村のclが夢見るように入りますが、すぐに尾田に、そして北村のclへ。このclは明るい音ですが、何か哀しみを感じてしまいます。輝く哀しさ。(レコードのライナーノートには、「軽やかなプレイに終始」とあり、感じ方は人それぞれ。)

B2  Bei Mir Bist Do Schoen

 このアルバムのタイトルになっている曲。北村のclのアドリブの展開が、ユダヤ的情緒を織り交ぜて自由自在に展開しています。 

B3 When I Glow Too Old To Dream

 やさしく尾田のtsが出て、すぐに北村のclが実に爽やかで、のびのびと歌います。すると、尾田のくつろぎのテナーが。秋満のPいい感じです。再び、北村のclがさわやかな風の如くそよいでいます。なかせます。尾田のtsこれがまたいいです。

B3の「When I Glow Too Old To Dream(夢見る頃を過ぎても)」は、尾田 悟のページでも少し触れておきましたが、尾田のtsの演奏も素晴らしいです。(下記リンク)