想い出のクリフォード・ブラウン 鑑賞ノート Clifford Brown

「やれやれ、暑くなりました。ジャズでも聴きませんか?」(3)

想い出のクリフォード・ブラウン


 45年ほど前ジャズを聴く仲間のところに立ち寄ると、よくクリフォード・ブラウンを聴かされました。ライヴ盤のLP「In Concert」やヘレン・メリルやサラ・ヴォーンとの共演盤あたりから、「Clifford Brown And Max Roach」、「Study In Brown」など彼の名盤と言われるものを中心に聴かされたのでした。若き昭和の時代の懐かしい想い出です。

 そうしているうちに、自然にブラウンのトランペットの音が耳から離れなくなりました。それで、自分でも何枚かLPレコードを買い求め、熱い夏の夜にくり返し聴いていました。

クリフォード・ブラウンの吹く熱帯夜  いろは

 CDが出てからもLPと同じアルバムを含め何枚か購入しました。クリフォード・ブラウンのLPとCDは、現在十数枚程度しかありませんが。(下の写真はCDのみ。同じタイトルのLPや他のタイトルのLPレコードもいくつか別に残っていました。)



 その当時、最初に聴いた「In Concert」は、ローチ&ブラウン・クインテットの唯一のライヴアルバム。やはりライヴなので一段と激しく気迫に満ちた演奏を楽しめます。ソロ・パートも充分とってある魅力的な歌心あふれる名演奏です。「Clifford Brown And Max Roach」、「Study In Brown」はスタジオ録音の名盤。どの演奏をとっても、エキサイティングかつ音楽性に満ちています。「Clifford Brown And Max Roach」の5曲目の自作「Joy Spring」のソロの美しさ。1曲目や6曲目なども好きでよく聴きました。「Study In Brown」では、1曲目、9曲目などアップテンポでの圧倒的な演奏を堪能できます。これらの名盤は、当時何度も聴いていた懐かしいアルバムです。


"The Beginning And The End" 〈いろはno思いこみ鑑賞ノート〉

 最近、もう一度聴いたみたいなと思って、取り出してきたアルバムは、上で紹介した名演奏の盤ではなく、どういうわけか、"The Beginning And The End"でした。

 クリフォード・ブラウンの記念すべき初吹き込みと、最後の吹き込み。最後の吹き込みは、フィラデルフィアの楽器店ミュージック・シティでのジャム・セッション。クリフォード・ブラウンというスター・プレーヤーとの共演に、地元のミュージシャンも力一杯の演奏を展開している。この溢れんばかりの熱気で、演奏がいやがうえにも盛り上がっていきます。



 このアルバム"The Beginning And The End"は、ライヴならではの熱い演奏。

 4曲目「Night In Tunisia」では、TsにブラウンのTpが被さりブラウンのTpソロが展開する。最高に乗っている。引き締まった高音のアドリブの展開。濃厚な演奏。その後、Tsになるがこれもなかなか。その後Pに。そして、再びブラウンのTp。激しく表出する音の連続、生命溢れる演奏。高音を紡いでゆくTpの変幻自在な音の魅力が溢れ出す。
 5曲名「Donna Lee」ここでもブラウンは、アップテンポに惜しみなく充溢した音を放出。Pのソロも頑張っている。再びブラウンのTp、激しい! 生命のあふれんばかりの充溢。この潔さ。

 やがて死ぬ けしきはみえず 蝉の声  芭蕉

 蝉(せみ)は、いまだ至らぬ明日を思い煩っている人間を嘲(あざけ)っているかもしれません。人間のように無常を思い煩って、何の益があるでしょうか。
 こんな芭蕉の句を思い出してしまいました。
 ブラウンの演奏のこの潔さ。身にずんと沁みこんでくるこの演奏。この蝉の声。

 クリフォード・ブラウンは、この演奏の数時間後に命を失いました。

 交通事故での死。ミンミンミンミンとひたすら鳴き続け、時至れば潔く死んでいく蝉の如くに。

*クリフォード・ブラウン Clifford Brown THE BEGINNING AND THE END 鑑賞ノート 亡くなる数時間前の演奏


「やれやれ、暑くなりました。ジャズでも聴きますか?(1)」は下のリンク。

「やれやれ、暑くなりました。ジャズでも聴きますか?(2)」は下のリンク。