みななちがって みんないい -汗と、クレーメルとロリンズと-

☆ 記事の一部を書き改め更新しました

「クラシック音楽が好きでよく聴いています」と言うと、「それは高尚な趣味ですね」と言われることがあります。

クラシック音楽だけが、高尚であるということはありません。(まして、クラシック音楽が好きな人間が高尚であることなどありません。好みと品格とは別ですからね。)

音楽には、いろいろなジャンルがあります。そして、それぞれの音楽が、それぞれに生き生きと存在しています。その多様性こそ、音楽のいのちですね。

それに高低をつけるのは間違いです。高低をつけるには、ある一つの尺度が必要です。一つの尺度をもって評価を下すのは、偏狭な、多様性とは相容れないことです。「速い」と「熱い」とでは、比べようがありません。尺度が違うからです。

次元の違う、いろいろな違う尺度があるから面白い。尺度が違うものであふれているからこそ、世界は豊かなのです。単一の尺度で決めつけられたら、たまったものではありません。それは灰色の世界です。

(そもそも、尺度など本来は存在しないのです。あるのは、あるがままのそのままの世界。尺度は、人間が言葉によって作りあげたものです。人間が言葉を発しなければ(基準を決めなければ)、本来それは存在しません。尺度があると便利なので、人間がそれを功利的に使っているだけなのです。現実の世界では、このような尺度は必要で、例えば、買い物の時は、値段の高低を比較して、安価なものを選びます。しかし、それは現実世界に生きるための方便であって、人間がつくった相対的な基準です。)

どんなジャンルの音楽でも、音楽と自分との出合いがあります。その出合いの経緯が多様であるように、その出合いの風景も多様です。この比べようもない出合いの多様性を尊重したいのです。つまり、それぞれの成り行きからの出合いがあり、そのそれぞれの物語の「個」性こそ、いのちの本質です。それは、それぞれの、みんなちがってみんないいいのちのかがやきに満ちています。それらは、大自然の多様な豊かさの発露です。

現実世界の雲間を突き抜けて至るところは、大空の、澄み切った「いのちのかがやき」の多様性。そこには、偏狭な比較も、偏見もありません。いのちの輝きそのもの。無限の多様性が用意された、豊かな世界です。高尚も高級も低級も何もありません。
そのままで、

みんなちがって、みんないい  (『わたしと小鳥とすずと』金子みすゞ)

そのものがそのまま充実充足している世界です。
クラシックもジャズもありません。「クラシックもジャズも糞食らえ」です。
下に記したような、クレーメルやロリンズの演奏を聴くと、そう思わざるを得ない気分にさせられます。そして、その気分はいつか確信に近くなってきます。

以上、たまたま音楽について述べてみましたが、実は、人間についてもまったく同じこと言えるのではないでしょうか。それぞれの人間が、みんなちがって、みんないい と。

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5月14日(火)

汗と、クレーメルとロリンズと

今日は一日中、草刈り作業をしました。午前中は、みかん畑の草刈り作業。そして、午後は、 みかんの木の根元や周辺に刈り取った草を敷く作業。そして、

夕方から涼風を浴びながら、のんびりと音楽を楽しみました。

まず、ギドン・クレーメルの「モーツァルトの ヴァイオリン協奏曲」。

若きモーツァルトの音楽、クレーメルの演奏が素晴らしいのです。喜び、それも純な喜びが、美しくあふれ出てくる演奏です。「このフレーズがたまらなくいいんだよなあ」と何度もため息をつきながら聴いていました。

聴いているだけで、気分が新たになり、少年の心に戻ったようになります。何とピュアな音楽。人間の相対世界の様々なしがらみ束縛から、心を解き放ってくれます。究極のリラクゼーション。そのままの素朴な、無垢な心に。

そして、ソニー・ロリンズの「ワーク・タイム」。

最初の曲「ショウほど素敵な商売はない」からして、音楽する喜びに満ちあふれている演奏です。喜びが駆け出しそうな音楽。ロリンズのテナーが生き生きと波打ち、伸び伸びと鳴り響く、気力のこもった演奏です。

クレーメルの「モーツァルトの ヴァイオリン協奏曲」も、ロリンズの「ワーク・タイム」も、この充実した時間は、あっという間に過ぎ去ってしまいました。

過ぎ去ってしまっても、しみじみとその感覚が心の中に生き続けます。混じりけのない、音楽の喜びだけが躍動するピュアな世界、クレーメル、ロリンズ、それぞれが、それぞれに、みんなちがって、みんないい。まさにイノセント。

汗を流した後の、さわやかな喜びのひと時。
クレーメル、ロリンズのそれぞれの素晴らしさに 乾杯!
音楽の多様性に、そして人間の多様性に 乾杯!