小林秀雄「疾走するかなしさ」 モーツァルト 弦楽五重奏曲 第4番 ト短調 K.516 楽曲構成 index(楽曲解説)



モーツァルトのかなしさは疾走する 弦楽五重奏曲 第4番 ト短調 K.516

 モーツァルトにとって宿命的ともいわれる調性、ト短調の曲。悲壮美にあふれた楽想。第1楽章の第1主題の異様な美しさ。

鬱蒼たる森に迷いし蝶の翅   いろは
うっそうたる もりにまよいし ちょうのはね

 この弦楽五重奏曲は、小林秀雄が彼の著書「モーツァルト」で、「モーツァルトとの散歩」(アンリ・ゲオン著)の中の言葉を引いて、次のように述べていることでも知られる曲である。

 『 モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない。涙の裡に玩弄するには美しすぎる。空の青さや海の匂いのように、万葉の歌人が、その使用法をよく知っていた「かなし」という言葉のようにかなしい。』(小林秀雄 著「モーツァルト」)

 この本をわたしも、小林秀雄の著書として読んだ経験はある。しかし、モーツァルトの音楽を味わうために読んだことはない。その頃は、小林の著作集にはまっていたので。

 アンリ・ゲオンの「モーツァルトとの散歩」とか、アインシュタインの「モーツァルト」はその頃同時に読んでいた。こちらは、モーツァルトの音楽の参考資料として読んでいました。


〈*以下色字は、いろはの「思いこみ鑑賞」〉

 万葉の歌人云々というのは、わたしには理解しがたいが、確かにゲオンのいう「疾走するかなしさ」という言葉は、なんとなく分かる「感じ」ではある。

 でも、そういう言葉に囚われずに聴くことが、モーツァルトの音楽を聴く「自由」である。自由すなわちモーツァルトの音楽そのものを聴くことである。といっても、モーツァルトの音楽そのものが、既に存在しているわけではない。それは、各人の自由の中に創り出すものであるから。


第1楽章 アレグロ ト短調 4分の4拍子 ソナタ形式

・緊張感ある異様な美しさ漂う楽想。この緊張感に終始する。展開部では、この緊張感に激しさが加わり、高まるかなしみ。

第2楽章 メヌエット アレグレット ト短調 4分の3拍子

・優しさあり時に淋しさありの美しいメヌエット。トリオは、切々と哀しくも美しい。

第3楽章 アダージョ・マ・ノン・トロッポ 変ホ長調 ソナタ形式

・滞り、躊躇するような第1主題。第2主題以降、切々と訴えるような曲想や、弦の柔らかな響きが美しい。一筋の光明が差し込んでくるような美しさが、心にもしみ込んでくる。

第4楽章 序奏 アダージョ ト短調 4分の3拍子 主部 アレグロ ト長調 8分の6拍子 ロンド形式

・序奏の第1ヴァイオリンの嘆きのような悲歌。モーツァルトのオペラの悲しい一場面のような。主部は、喜びにあふれ駆け出しそうな、踊り出すような躍動感。軽快で華やかだが、一抹の哀しさをともなう軽快さ。ロンドのこのような楽想にこそ、「疾走するかなしさ」を感じてしまう。



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楽曲構成 indexについて
*下記のIndex time付の楽曲構成表は、わたし所有の「スメタナ四重奏団+ヨゼフ・スーク」によるモーツァルト弦楽五重奏曲のCD(1976年録音)の資料をもとに、CDプレーヤーで調べ記録したIndex timeを加えて、わたし自身で時系列に縦に組み直して作成したものです。
 手作業でメモし整理したものですので、Index timeには多少誤差等があるかもしれません。
*同じ「スメタナ四重奏団+スーク」のCDを購入される方、又はお持ちの方は、このIndexによって、各楽章の構成を把握しながらお聴きになることができます。

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